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ドクターアドバイス編

ドクターのアンチエイジングアドバイス

相良 洋子 先生のプロフィール

銀座東京クリニック 院長 医学博士

経歴
1981年東京大学医学部医学科卒 医学博士
長野赤十字病院、東京厚生年金病院、三楽病院、東京都老人医療センターなどに勤務

資格
日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医/p>

所属学会等
日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本女性心身医学会、日本更年期医学会、日本心身医学会/p>

著書
「PMSを知っていますか」(NHK出版)
「更年期がラクになる心と体のエクササイズ」(共著、草思社)
「こころの気がかり相談室」(共著、朝日新聞社)
「あなたのその気分、「うつ」かもしれません」(共著、中経出版)

さがらレディスクリニックのHPは下記です。
http://www.sagara-clinic.com/index.html

ドクターのアンチエイジングアドバイス

更年期障害とうつの狭間

  • 「私は更年期障害なの、それとも鬱なの?」と患者さんからよく聞かれるのだが、この質問に答えるのはなかなか難しい。
  • というのは、この質問をされる方は、「更年期障害とうつは別物だ」と思っておられるのだが、私はその方の思い込み自体が問題だと思っているからである。
  • そもそも更年期という言葉は、「生殖期から老年期への移行期」、つまり卵巣機能が衰退・閉止していく時期とされており、卵巣機能という面からみた女性のライフサイクルの一定の幅を持った時期を指す言葉だ。
  • 具体的には閉経の前後の5年間くらい(平均的には45〜55歳)、合計10年間くらいを指すことになる。
  • そして、更年期障害と呼んでいるものは、「卵巣機能の衰退・閉止によっておこる症状」となりそうだが、そう単純ではないところに更年期障害の奥深さがある。
  • 日本産科婦人科学会は「更年期障害の主たる原因は卵巣機能の低下であり、これに加齢に伴う身体的変化、精神・心理的な要因、社会文化的な環境因子などが複合的に影響することにより症状が発現する」と定義している。
  • つまり、更年期障害は卵巣機能の低下だけが原因ではなく、それ以外にも多様・多彩な要因で発症してくるものだということだ。
  • 更年期は誰にでもおこる生理的現象であり、更年期障害は卵巣機能の衰退に多彩な原因が加重されておこってくる多彩な症状であって、「更年期=更年期障害」ではないということなのだ。
  • だから、複合的な要因からおこる、更年期女性の不定愁訴症状を卵巣機能の低下に注目して治療しても、その女性のQOL(quality oflife)を改善するためには不十分だということは、医師の間では常識として受け入れられている。
  • 更年期女性の不定愁訴は多種多様である。
  • それは、各自各様、それぞれの独自の要因から生じてくる愁訴があり、それらが混在するだけでなく、様々な要因の複合的な影響で多彩な様相を呈することがよく観られるし、さらに、同じような愁訴を訴えていても、個人個人でその要因が異なることもよく観られる現象だ。
  • 更年期症状を訴えて来院される患者さんの診療にあたっては、その方のもつ多様な要因を分析・分類して、要因の一つ一つに対して個別に治療していくというやり方は、学問としての医学にとっては興味があるにしても、患者さん本人にとってはあまり意味がない、と常日ごろ私は思っている。
  • それどころか、そのような分析的アプーローチでは、その女性のおかれている状況や抱えている問題の本質を見逃してしまうことになる、という懸念すら感じている。
  • さて、それでは、更年期障害の本質とは何だろう?
  • 私は「女性のライフサイクルの過渡期におこる適応不全」だと考えている。
  • 更年期という言葉が示すように、この時期は性成熟期と老年期の間に位置する過渡期であり、ホルモンの変化として明確に捉えることができる卵巣機能の変化だけでなく、肉体的にも種々の加齢現象が顕著になってくる時期だ。
  • それを自分でも強く意識するようになるし、他人の目からもそれを隠しようがなくなってくる時期でもある。
  • さらに、夫の定年、子供の独立などの環境の変化などが、意識する、しないに関わらず、ある種の「喪失感」という内面的な変化を生じて、それが肉体的変化に重なって、一度に襲ってくる時期なのだ。
  • 考えてみれば、成人してから更年期に至るまでの間は、女性は妻として母としてあるいは職業婦人としての役割を持ち、人生の中で最も活き活きしている時期である。
  • 一方、更年期の向こうにある老年期はといえば、一般的には衰退・退行、老齢そして死以外のイメージを持つことは難しい。
  • つまり、女性のライフサイクル全体を見渡したとき、更年期は180度の舵取りをしなければならない、人生で最も大きな過渡期であるといっても過言ではない。
  • このように考えれば、更年期に精神的かつ肉体的に様々な「適応不全」が起こるのも無理からぬことなのである。
  • 急に熱くなって汗をかく、いわゆるホットフラッシュは、卵巣機能の低下に伴って起こるとされており、更年期障害の身体症状として典型的なものである。
  • ホットフラッシュは、低下したホルモンを補充することで劇的に改善することは、よく知られた現象だ。
  • 一方、精神症状の中で重要なのは「抑うつ気分」である。
  • これには、卵巣機能の低下が関与しているものもあれば、心因や社会的素因の関与が大きいものもある。
  • その程度は、同じ原因であっても軽症から重症まで人によって様々である。
  • いずれにしても、更年期が、人生前半に獲得した多くの物を失って、老いや死に直面する老年期に向かう人生最大の過渡期であることを考えれば、抑うつ的になるのはいわば当然のことで、この抑うつとしっかり向き合ってこそ、人生後半を充実させることができる。
  • 抑うつは、いわば、過渡期を乗り越えるための重要な原動力、と看做してよいものなのである。
  • さて、冒頭の質問に戻ってみよう。
  • 「更年期障害なのか、うつなのか?」。この質問の背景には、更年期障害は女性ホルモンの低下でおこるものという誤解があり、抑うつは精神病という偏見があるように思う。
  • 今まで述べてきたように、更年期障害は複合的な要因で起こるものであり、また抑うつ気分は人生の過渡期に臨んで避けては通れない心理的プロセスである。
  • だから私は、抑うつ症状を訴えてくる患者さんには、それは「更年期のうつです」と答えることにしており、その観点から診療を行なっている。

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